人間日常の生活の中では常識というものを意識せず理解し、また使っています。ところが違った環境に舞い込むと、人は非常識なことを不意にやってみたりするものなのです。
私がグアムに来て2年経った頃、初めて仕事でロサンゼルスに行きました。グアムとは違ってすべてがでかく見え、ジャングルジムのように張り巡らされたハイウェイなど田舎者の私は完全に圧倒されてしまいました。そういいながらも連れの部下の兄貴がLAに住んでおり、彼の協力もあって仕事の方は順調に運び、予定より早めに終了してしまいました。さてどうしたものかと思っていると、「ボス、ティファナに行こう。」と言うのです。何でも物価が安いのでショッピングにはもってこいとの事。LAからも4時間で行くからというのです。「どこにあるの?」と訊くと「サンディエゴのもうちょっと南、メキシコ。」というので、「ああ残念だな、パスポートホテルに置いて来ちゃったよ。」と言うと、「だいじょーぶ。そんなの要らないよ。」え、国境を越えるのにパスポートが要らない?そんな所があるの?この私の疑問に彼は黒っぽいカードのような物を私に見せました。ああ、何だ免許証か。それだったら持ってる。若干の不安はあったものの、西海岸を南にドライブする4時間は大変快適なもので、サンディエゴを抜けてメキシコ国境に辿り着くまではすっかりその不安は失せていました。国境の検問が近づくとやはりパスポートを持って来てなかった不安が頭を過ぎりました。我々の番になって「え?」窓を開けてはいたものの車はそのまま国境を越えたではないですか。あ、本当だ。でも何にもチェックしなかった。そこで色んな想像が働いたのですが、でも元来のんきな性格の私は、まあいいや、で終わったあたりが自分でもさすがと思ってしまいました。さて、買い物も食事も済み、辺りはすっかり真っ暗。米国国境に向けて車を走らせました。また検問を通過する段になりました。来る時に検査が無かったせいかまったく安心し切っていました。「ハーイ。」検問所の係りがにこやかに挨拶をします。二人が免許証を財布から出すのを見て私もそれに続きました。ん?係員の私の免許証を見る目が変です。「それは何だ?」と言うので「グアムライセンス。」「そうじゃない、出生証明書だろ。」え、そんなの無い。救いを求めるように連れを見ると俺は関係ないと言う顔をしています。そうだったんです。国境を越える時はパスポートは要るんです!ハーイと言ってグアムの免許証を見せた自分のばかさ加減が滑稽ですらありました。車から降ろされ詰所に連れて行かれました。そこには意図的に国境を突破しようとした人達かすごい人並みです。こりゃあ明日のフライトは無理だな。それにしてもどうすりゃ帰してくれるんだろうか。暫くして担当官がやってきました。ホテルにパスポートを忘れたと言うと、連れに「お前ら車で取って来い。じゃ無きゃこいつは留置所行きだな。」あちゃあ、これで俺も前科もんか、仕方ない。横では連れの兄弟が「兄ちゃんがあんなこと言うからだ。」「いやUSかと思ったからさ。」などということでしょう、チャモロ語でワイワイやりあっています。係官は目を三角にして早くパスポートを取りに行けといわんばかりです。その時、奥のほうから一人の男が出てきて私でも知ってるチャモロ語のフレーズを口にしたのです。「ラーンニャネ。お前らグアムから来たのか?何やってんだここで?」いや実は赫々云々と事の顛末を説明すると、「日本人?パスポート番号は?」そうです。ここのPCには私の個人情報が入っているのです。「ああ、Eビザね。」それから隅っこに呼ばれて「じゃあ100ドル置いてって。後はいいから。」と言うのです。文句いいたげな担当係官に「いい、あとは俺がやる。」とピシャリ。連れによると彼はここのヘッドだったのです。さてさて貴重な体験をした私は後日サイパンに行く時、期限切れのパスポートで乗ろうとしたことがあります。この稀な体験が生かされていない私に次は何が待っているのでしょう。
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