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「トラベルDEトラブル(プロヴァンスの泥棒)」 小林正典
9月/06

 セザンヌ没後100年の特別展に旅程を合わせ、去る6月友人たちと南仏プロヴァンスとコート・ダジュールを訪ねた。セザンヌの故郷エクス・アン・プロヴァンスでは、12世紀の修道院を改造した由緒あるミニホテル「オテル・オーギュスタン」に宿泊したが、そのホテルで私は生まれて初めて盗難事件に遭遇した。

 旅の二日目、セザンヌが多くの傑作を描いた「ビベミュスの石切場」の山道を歩いたり、晩年に彼が自分で設計した「ローヴのアトリエ」を見学したり、旅程は順調に進んでいた。

 その日の夕方、一旦ホテルに戻ってから数人の仲間と旧市街へ「カリソン」を買いに出かけた。カリソンとはオレンジ風味のアーモンド砂糖菓子でエクスの街の名物。フランス随一の銘菓と云われる。

 さて、1時間ほどしてホテルに戻ると、ベッドの上に帽子と一緒に置いた筈のキプリングのショルダーバッグが消えていた。バッグの中身はデジカメ、サングラス、ペンとメモ帳、旅行用の醤油パック、梅干飴など。損害額はバッグも含めて総額15万円ほどである。

 部屋にセイフティー・ボックスのないホテルだったので、財布、カード類、パスポート、航空券などの貴重品類は朝から身に着けて(上着のポケット)歩いていた。しかし、買物にはなるべく身軽で出かけたかったので、上着はワードローブに掛け、財布以外の貴重品はスーツケースに移して鍵をかけた。そして、一旦ショルダーバッグは持って出ようとしたのだが、カメラは重いし、もう夕方で帽子もサングラスも不要、この際はショルダーバッグも置いて行こうと思い直した。

 その時、ショルダーバッグも用心のためスーツケースに仕舞うべきかと一瞬迷ったのだが、まあ大丈夫だろうと思い返し、ベッドの上に無造作に置いて出てしまった。まあ考えれば、全て私の不注意である。

 そのミニホテルではワゴンを廊下に置き、一人のメイドが二つの部屋を同時に掃除したり、ナイトセットしたりしていた。その間、ドアは開け放しになるので、この方法は兎角泥棒にやられ易い。まして、私の部屋はエレベーターの直ぐ前。内部単独犯か、外部からの闖入者か、内部と外部の連携犯罪か、いろんなケースが考えられるが、何れにしろちょっと私のワキが甘かった。

 「外出の時に鍵の掛け忘れでは?レポートしたければご自分で警察へ出向いて下さい」と、ホテルのフロントは至って冷たい。一般に欧州のホテルの応対はこんなものだ。内部調査やポリス・レポートに協力的なホテルなど先ずない。同日深夜、東京の保険会社に電話してみると、ホテルや警察の証明は必ずしも必要なし。必要なのは同行の友人に証人として申請書に署名・捺印して貰うこと。また、物品購入時の領収書や保証書があれば、申請書類と一緒に送れ、とのことであった。帰国後、何とカメラの空箱の底から領収書と保証書が出てきたりして、申請はほぼ8割の保障獲得で一件落着した。

 今回は神聖なる修道院ホテルでさえ泥棒が入ることを学んだが、残念なのは撮影禁止のセザンヌのアトリエの内部を、こっそり盗撮した貴重なショットを失ったことである。また、果たしてドロボウ君があの醤油パックと梅干飴をどう理解したのか、そのことも相当気になっている。




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