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| 「アメリカ国立公園紀行−バスで巡る大自然の旅」 小林正典 |
| 10月/05 |
| マリポサ・グローブの数キロ手前にワオナという小さな村落がある。ここは昔インディアンの集落があったところだ。ヨセミテの自然の奥深さに魅せられたガレン・クラークという人物が、1857年ヨセミテで最初のロッジをここに造った。彼のロッジはクラーク・ステーションと呼ばれて、マリポサとヨセミテ峡谷の間を旅する人達に親しまれ、彼はヨセミテの案内人として頼りにされた。 クラーク氏は、「ヨセミテの自然保護は国家の手で」との考えを最初に打ち出した人で、当時のリンカーン大統領に熱心に働きかけを行った。しかし、あいにく南北戦争で忙しかったリンカーンは、やや中途半端に“人々のプレジャーのために州が管理すべし”という判断に留まってしまい、1864年ヨセミテは州の公園となった。そして、クラーク氏が初代の管理者に任命された。そして、1890年になってようやくヨセミテは国立公園の指定を受けるが、このマリポサ・グローブが国立公園地域に編入されたのは1906年になってからである。 1872年、あのイエローストンに世界で最初の国立公園が生まれた。そして、アメリカが生み出したこの「国立公園」のコンセプトはその後世界中に拡がり、人類に大切な精神資産を残すという意味でも、その価値は計り知れないものがある。しかし、ヨセミテを愛する人達の中には、「国立公園」の概念が最初に生まれたのはイエローストーンではなくヨセミテであり、その種を蒔いたのがガレン・クラーク氏だ、と悔しがる人が多いそうだ。両公園は何かと比較されることが多いだけに、その気持ちも分らなくもない。いま通ってきたワオナ道路は1875年に開通したそうだが、その当時に開業したワオナ・ホテルが今でもひっそりと建っていた。ワオナには歴史博物館もあるのだが、今日は残念ながら訪問する時間がない。 灰色の巨人とトンネルの木 マリポサ・グローブの駐車場にバスを停め、早速メイン・トレイルを歩き出す。足に自信の無い人はオープン・エアーのトラムカーで一周することも出来る。トレイルは上の森と下の森の2地区にまたがるが、我々は下の森だけを歩く。 先ず右手に巨大な倒木が見えてきた。樹齢2千年を超えるセコイアで、倒れてからすでに300年以上は経っているそうだ。セコイアの木は天然防腐剤の役目をするタンニンを多く含むため、倒れてから何百年たっても、乾燥している限りは腐らないのだ。フォーレン・モナーク、“倒れた帝王”と呼ばれているその倒木の直径は7mくらいはある。巨木セコイアにも弱点があって、根は半径45mまで広がっていくが、その深さは地中1m〜2mしかない。従って風雪などの気象現象によっては倒れることもあるのだ。しばらく登って行くと、左手に“独身男性と3人の美女”と呼ばれる4本のセコイアが、お互い微妙な位置を保って立っていた。2千年を超えても変らない男女の位置関係。それが良いのか悪いのか。そのうち誰かが倒れるのか。その行く末はいま知る由も無い。 小鳥のさえずりを聞きながら更にトレイルを進む。森の植生やセコイアの浅い根を傷めるので、トレイル以外のところを歩くことは禁じられている。リスが傍らの木に駆け上がっていった。やがて、マリポサの森で一番古いセコイアの木、グリズリー・ジャイアント、「灰色の巨人」の前に出た。樹齢は2700年と推定されている。この木が芽を出した頃、日本はまだ縄文時代だったのか。高さが64m、幹の周りは29mある。高さではオレゴン州の海辺などにあるコースト・レッドウッドの方がセコイアより高く、120m以上にもなる。幹の太さでもメキシコのモンテズマ・サイプレスなどは直径が15mにもなる。また樹齢では屋久島の屋久杉の4千年には及ばない。しかし、生物学者によると、“総体積”に於いてはいま目の前に聳えるジャイアント・セコイアの木が、現在、地球上に生存している生物の中では、「最大の生物」なのだそうだ。 グリズリー・ジャイアントの直ぐ奥には、胴体に四角いトンネルを掘られた「カリフォルニア・トンネルの木」というセコイアが立っている。これはトンネルの木としては第2号だそうだが、1895年に胴体にトンネルを開けられてから既に100余年の間、弱りながらも未だ成長を続けているらしい。 実はトンネル第1号は1881年に上の森にあった巨木に掘られた。その木は「ワオナ・トンネルの木」として有名になり、最初の頃は馬車、後には自動車でくぐることがヨセミテ訪問の目玉になってしまった。そして、ワオナ・トンネルの木が冬季は積雪で通れなくなるため、ピンチ・ヒッターとして掘られたのが、第2号のカリフォルニア・トンネルだったのだ。第1号は次第に衰弱が進み、トンネルを掘られてから88年後の1969年には遂に倒れ、今は森の奥に静かに横たわっているそうだ。大木の幹にトンネルなどという暴挙は、マリポサ・グローブが国立公園に編入される前の出来事だが、人類が犯した取り返しのつかないオー・ミステイクである。トンネル第2号に寄り添って記念写真を撮りながら、「おい、頑張れよ」と皆で声をかけた。 山火事は消すな ところで、このマリポサの森ではもう一つ大きなミスがあった。それは、国立公園に指定されてから100年近く、公園局が山火事を“消し続けてきた”ことである。落雷で自然発火する火事によって、堆積した枯れ枝や密生した植物が焼き払われ、土壌は豊かになりセコイヤの種子や若木には太陽光線が届く。セコイヤの幹を見ると黒く焼け焦げた跡が沢山あるが、これはセコイアが千年、2千年と山火事に耐えて生きてきた証拠である。実際その樹皮や木質は燃えにくく、火に対する抵抗力は非常に強い。しかし、長い間この原理が分らなかったために、公園局は山火事を消し続け、若木が育ちにくい環境を作りあげてしまった。その後この過ちに気づいてからは、「計画火災プログラム」を立案し、逆に“人口火災”を起こしながら環境改善に努め、最近やっと森林は活力を取り戻してきている。 上の森まで足を延ばして、倒れているトンネル1号にも会いたいが、もう時間がない。帰り道でまたリスを見かけた。このリスはダグラスとかチカリーと呼ばれる種類で、セコイアの実の多肉質の皮を食べて、中に入っている種を地面に落としてくれる。セコイアは自ら実を落とす能力がないので、リスやカブト虫の助けを借りないと、成熟した実は20年も30年も枝に付いたままだという。そして、運良く地面に落ちた種も、発芽し大木に成長していくのは百万個に1個の確率なのだそうだ。だから絶対に胴体にトンネルを掘ったりしてはいけないのである。 |
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