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「モンゴルの旅 チンギス・ハーンのふるさとを訪ねて 7(最終回)」 小林正典
6月/01

某月某日

 いささか前夜のスカッチとモンゴルヴォッカが頭の芯に残っていて今朝は二日酔い。しかし、今夜遅い便でもう日本に帰らなければならない最後の日なので、頑張って市内観光と買い物ツアーに出かける。チベット仏教に於ける「活仏」とは何なのかということは、勉強不足でよく判らないが、第8代の活仏が毎年冬の時期をすごしたところ、ボクドハーン宮殿を訪ねる。素晴らしい仏画や仏像が数多く陳列されているのだが、二日酔いで足がだるくなり直ぐどこかに座りたくなる状態ではとても美術鑑賞は無理だ。宮殿の中庭のベンチに腰掛けて涼風に吹かれながら快晴の青空を見上げているうちに眠くなってきた。ああ、このままあと二三日この爽やかな風の中に身をまかせて居たい。活仏が使用したベッド、洗面道具類、机なども展示されていたが、かなり貴族的な匂いのするもので、活仏がいかに(偉い人)であるかは十分想像できた。しかし、今日の私はBEDを見れば横になりたくなるし、洗面道具を見れば冷たい水で顔を洗いたくなる状態なので、余り真面目な見学者とは言えない。

 バスはやがて国立歴史博物館へ向かった。ここは建物も新しく内部の展示も近代的で見応えがありそうだ。重い足を引きずりながらでも頑張って見て回る。考古学、地質学、民俗学、社会学、歴史学といろんな切り口からの展示が良く纏められているが、やはりモンゴルの民族衣装と帽子の展示が印象に残った。

 一般にモンゴルの民族衣装をデールと呼ぶが、地域や多様な少数民族などによりスタイルも呼び名も実にいろいろで面白い。また季節の差の激しい国なので、夏用、春秋用、極寒の冬用と季節による多様性も豊かだ。大きな共通点としては、どれも馬に乗りやすく出来ている事と、雨の少ない乾燥地での生活に適用するようにさまざまな工夫がされていることだろう。立ち襟、左前の前開き、長い袖と身丈、そしてしっかりした帯を締めることも、各地域の衣装に共通するポイントだ。立ち襟は体の乾燥を防ぎ、毒虫などの侵入も防ぐ。長い袖と大きなカフスは乗馬の際の防風防寒に役立つ。長い身の丈はいざというとき寝具や毛布の代わりになる。金属や大きなボタンで飾らないのは落馬した時に体を傷つけないため。また、帯を腹に固く巻きつけるスタイルが多いのは、乗馬の振動からくる胃下垂を防ぐ為というのも面白い。とにかく、各種のブーツと共にモンゴルの衣装のルーツは「乗馬と遊牧生活」にあることが良く分かった。

 また、衣装の展示のすぐ側に各種の帽子の展示もあったが、その種類の多いのには驚いた。100種類以上ありそうだ。遊牧民族が昔からいかにお洒落で帽子好きかを物語っているようだ。

 ウランバートル市内には外国人が免税で買える店が23ケ所ある。午後からはそのうちのひとつ「国立デパート」へ出かける。一階からエレベーターに乗ろうとして驚いた。エレベーターの直ぐ脇に英語の標示が出ていて(このエレベーターは階と階の途中でストップすることがあるので、十分ご注意ください)と書いてあるではないか。これでは100%お客は階段を利用することになるだろう。私も命が惜しいので当然階段を利用することにした。しかし、あの標示が何か単なる英語表現の間違いだったのか、それとも本当に途中で止まる恐ろしいエレベーターだったのか、その後しばらく気になって仕方がなかった。

 店内にあまりお客の数は多くない。ただ一箇所だけやけに人だかりしている所があるので近寄ってみると、そこはモンゴル産本物のカシミヤ製品の売り場だった。お客は100%日本人、そしてその99%がご夫人たち。日本のデパートの特売場の光景を思い出させるようなすさまじさで買い物というバトルを戦っている。南の島に住む私にとっては冬物のセーターなど興味が無いし、値段が本当に安いのか高いのかも判らないが、教養ある奥様たちがあれだけ夢中になっているのだから、きっと安くて良い物なのだろう。皆々さまモンゴル経済発展のためにどうぞ頑張ってください、と叫びたくなった。

 次に目立ったのは乗馬用の鞍の売り場だった。さすがに馬の国だけあって、鞍や乗馬用具の売り場は面積も広くよい場所を占めている。色とりどりの鞍が並べられた前では、現地の青年たちが憧れの車を見るような目つきで品定めしている。余り美しいので私もひとつ買いたくなったが、鞍より先にまず馬を買わなければならないのであきらめた。

 雑貨売り場でモンゴル相撲の小さな人形を買ったりT-シャツを買ったりして冷やかしていると、店員のひとりが「私は英語と日本語が少し話せます」と自己PRしてきた。笑顔がとても可愛いので、「それでは会話のお勉強をしましょう」と油を売ることにする。モンゴル大学で英語と日本語を勉強している娘で只今バイト中だそうだ。彼女「モンゴル語の美人は日本では反対だから気をつけましょう」と奇妙な事を言う。片言会話の末にやっと彼女のジョークがわかった。モンゴル語で(美人)は(ブスヌイ)と言うのだそうだ。

 モンゴル語と日本語は言葉の並べ方、文法が同じなので勉強が楽しいと彼女は言う。そして、相手を思う優しい心、人をもてなす心もモンゴル人と日本人は同じ、と恥ずかしそうに言った。本当にそうだろうか。そうありたい・・・・

 さあ、自分のルーツを訪ねる(ふるさと回遊)の旅もいよいよ終わりだ。今夜出発の大阪便に間に合うよう、そろそろホテルに戻って荷造りをしなければならない。私は素晴らしい笑顔のブスヌイに別れを告げると、エレベーターを避け、足ばやに国立デパートの「階段」を下った。

(おわり)

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